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ロングスモーキングを経験しないと理解できないドラマがある。
2014年9月14日、全日本パイプスモーキング選手権大会が東京浅草で開催された。
東京スモーキング・クラブ(TSC)からは9人が参加した。
場所は浅草ビューホテルの大宴会場。
聞くところによると、これほど大がかりでゴージャスな大会は日本のみだという。いつも不思議に思うのはなぜパイプ煙草を吸うためにこんなにもゴージャスな装置が必要なのか、ということ。そして何故こんなにも多くのスモーカーを魅了するのか、ということ。

今回の大会で自分なりの回答を得られたのでそれを書いてみよう。

以前書いたのだが、この大会で重要な事は孤独なスモーカー達が仲間と邂逅すること。しかし、それだけでは競技に真剣に取り組む理由はわからない。
パイプの競技に限らず、他人と何かを競争する行為は得てして人を虜にする。特に肉体的なハンデのない競技ならなおさらだ。人の負けず嫌い心を大いに刺激してくれる。一度参加して悔しい思いをすればたちまち虜になる。

さて、オレが今回知ったことは3gの煙草を灰にするまでにドラマがあること。たった1ボールの煙草を灰にする過程で様々なことを考え、様々な行為をし、様々な結果を得ること。その過程を紹介しよう。

はじめに大会用パイプと出会う。今回の深代製パイプは彫りの深いラスティックビリヤード。ボールがやや小さめだ。ここでメンバーに注意する。タンパーが使いにくいであろうこと。煙草をいつもより固めに詰めてしまうであろうこと。
横をみるとトモカズが自分の顔をはたいて気合いを入れている。今回60分を超えなければ坊主にする、と鼻息が荒い。その意気込みは危険であることを感じたメンバーたちがちゃちゃを入れてクールダウンを試みるも、熱いままだ。これは危ないな。
着火前に空調の様子を確認すると、オレ達のテーブルはかなりのダウンフォースがあった。これは煙草を燃えやすくする。注意しよう。

計測員は20歳のイケメン学生。メンバーは君もうちのクラブに入らないかと勧誘している。リラックスできているようだ。

そして着火。全員がきちんと着火した。優勝を狙う人たちは1分の着火時間のうち、ラスト30秒だけを使って1点に着火する。オレは吸いきり90分強で10位以内を狙う吸い方なので1分しっかり使って強めに着火する。着火直後にタンパーを使いすぎると消してしまう恐れがあるので、少し火が落ち着くまで待つ。
落ち着いたら軽く表面をならしてから火を絞ってゆく。しかし序盤に火を絞りすぎると落ちてしまうことがあるので、やや大きめの火種をキープ。火種の大きさは煙で判断する。

ロンスモのコツは、いかに吸ったり吹いたりしない時間が取れるかだ。何もしなくても煙が上がっている時には火種が大きい証拠なので、何もせずに観だ。

5分を超えたところでトモカズが消えた。やはり気負いすぎたか。
13分、幽霊会員エバナが消える。これはしょうがない。外で彼女を待たせているからな。
このあたりではまだボールの中がどうなっているのか分からない。火種はやや大きめなので、ちょっと心配になってきた。この調子で燃やすと60分で消えてしまう。かといって、極端に絞るのは怖いのでしばらくこのまま様子をみよう。

37分、魔女が落ちた。煙突燃えだった。この時点でオレの火種は潜ったまま。潜った火種が煙突に繋がるので、しきりにタンパーで煙草をくずし、移動させる。火種を表面に上げるには少し強く吸いながら様子を見るのだが、燃やしすぎを恐れてキープ。
39分、新人のナオヤが消えた。奴は喋って消してしまうタイプだ。上位を狙う人たちはひたすら無口だ。
このあたりで火種が浮き出してきたので、少しは余裕ができる。火種が表面にあるうちは火種を観察しながら吸い吹きしない時間がとれる。しかしこの時点で煙草を消費しすぎた感がある。90分はいかないだろうと予測する。

ボールの中はかなり安定してきたので周りを観察する余裕が出てきた。
古巣の池田山下のテーブルを見ると、何人か脱落したもののけっこう残っている。しかもロンスモより酒を重視している2人が残っていので、驚いた。朝の飲みが足りなかったのだろう。

余裕がでてくると油断も生じる。ボールの中でやたらと空気の通りの良いルートができることがある。そこに小さな火種が入るとストンと落ちて消えてしまう。
突然に煙が細くなった。危険信号だ。タンパーで抑えながら3回吹き、1回吸う、を繰り返した。なんとか火種が持ちかえしたので、タンパーで圧をかけたり回転させて煙草の密度に変化を加える。ここでまた煙草を消費してしまう。

47分、フミノスが消える。吸いきっている。空調のせいか早い。
52分、セリナが消える。横でニコチン酔いしてグロッキーのお父様が気になっていたからな。仕方ない。

ここで残った3人が90分を超えれば団体入賞が狙える。平均タイムがよいサダ、マーサ、オレだ。
しかし、この時点で煙草の分量はかなり減ってきていた。75分吸いきりか。

59分、サダが消える。これで団体入賞はなくなった。ボールに残った煙草を灰皿に落とす。その量はあと1時間以上はゆうにに吸えるほどだった。「火種の移動に失敗しました」。しかし多くのベテランがこのように大量の煙草を残して消してしまうのだ。オレのボールの中にはあと15分ほどの煙草。
61分、マーサが消える。これでレディースの入賞もなくなった。テーブルにはオレと計測員のみ。

手でボールを覆い、上からの風を遮りながらゆっくりと吸い吹きする。時々空気の抵抗が弱くなると危険信号だ。タンパーで煙草を手前に寄せるようにする。ボールの中にはわずかの煙草。80分はいけるかな。
ひたすらより目になりながらボールから立ち上る煙を凝視する。
80分を超えた。しかし残っている人数はまだ多い。タンパーでまた煙草を手前に寄せるがボールが小さいので思うように動かせない。これが最後だ。これ以上はどうしようもない。

82分。タンパーを煙草から5mmほど離したところでボールに刺しっぱなしにする。これは上からの風を遮り、少ない空気でボール内に気流を起こし残った煙草を燃やし尽くすため。この状態からはひたすら吹くのみ。鼻から息を吸い、口から細い息を吹く。これがけっこう効果的だった。そろそろ消えてもいい頃だが、ボールから煙は立ち上っている。
ここにきて初めて欲が出てきた。90分行けるかも。ボールの底が熱くなってきたけどあと5分、頑張れオレ。

タンパーをさらに深く煙草から2mm位の位置でキープ。角度を変えながら気流を調整する。横目で掲示板を見る。おそらく20人は切っているだろう。ひょっとするかもよ、オレ。

そして煙の代わりに灰が吹き出した。終わった。
「消えました。」と計測員に申告する。
「90分いきましたよ」と20歳の青年が笑顔で伝えてくれた。この時、オレ達の間には薄い連帯感が芽生えていた。ラスト30分、彼と2人で戦ったから。
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結果は90分50秒。電光掲示板には残り19名とでていたが、これにははタイムラグがある。実際の順位は13位だった。悔しかったが10位以内に入るには更に7分吸わなければならなかった。今回の調子では無理であろう。むしろ最後の10分はオマケみたいなもので、なんとか踏ん張ろうと頑張ったオレの努力へのご褒美みたいなものだった。


美味しく吸うためではない喫煙。まったくもて馬鹿馬鹿しい遊びだが、やってみると面白い発見も多い。
タイムが伸びれば伸びるほど発見があり、ギリギリの火皿との駆け引きがとても面白いんだ。きっと120分を想定した吸い方には違うプロセスとドラマがあるんだろうな。

誰かに勧めるつもりもないが、わずかな人しか見ることが出来ないスモーキングの世界があることをちょっぴり理解できただろうか。

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